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浦和地方裁判所 平成4年(わ)203号 判決 1992年10月28日

本籍

埼玉県秩父郡長瀞町大字長瀞二二番地の二

住居

右同

不動産業

落合忠三郎

昭和一二年六月二三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官日高八雲及び弁護人斎藤正義各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、埼玉県秩父郡長瀞町大字長瀞二二番地の二に居住し、同郡長瀞町大字本野上二四五番地一において、「おちあい不動産」の名称で不動産業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、不動産の売上の一部を除外し、架空の仕入を計上するなどの方法により所得を隠匿した上、平成元年分の実際総所得金額が三三九七万三七五〇円で、分離課税による土地等の事業所得金額が二億五五六五万九八一八円であったのにかかわらず、平成二年三月一四日、同県秩父市日野田町一丁目二番四一号所在の所轄秩父税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額がなく、分離課税による土地等の事業所得金額が一億一八一一万六一一円で、これに対する所得税額が六四四二万九八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億六五七八万二〇〇〇円と右申告税額との差額一億一三五万二二〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成四年三月二三日付け供述調書

一  高田正明、和田博明及び落合紀之の検察官に対する各供述調書

一  秩父税務署長作成の回答書

一  大蔵事務官作成の売上金額調査書、期首商品棚卸高仕入金額調査書、期末商品棚卸高調査書、広告宣伝費調査書、給料賃金調査書、利子割引料調査書、諸会費調査書、支払手数料調査書、測量・分筆費調査書、造成費調査書、自動車燃料費調査書、雑費調査書、専従者給与調査書、青色申告控除額調査書、事業専従者控除額調査書、事業所得(総合課税)調査書、分離課税の土地等の事業所得(短期所有分)調査書、分離課税の土地等の事業所得(超短期所有分)調査書、現金調査書、預金調査書、受取手形調査書

一  検察事務官作成の報告書

(法令の適用)

被告人の判示所為は、所得税法二三八条に該当するところ、同条一項を適用して、所定の懲役と罰金とを併科することとし、情状により、同条二項を適用して、罰金額を、免れた所得税の額に相当する金額以下とすることとし、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

一  本件は、埼玉県秩父郡長瀞町内に居住して、不動産業を営んでいた被告人が、

1  昭和六二年ころから地価が高騰した上、長瀞周辺地区のリゾート開発ブームもあって、「おちあい不動産」の売上が次第に伸び、殊に、平成元年になって、売上が飛躍的に伸び、所得税も多額に上ることになったことから、税金で持って行かれるくらいなら、税金をごまかして、その分で自己の借金を返済しておこうと考えたこと、

2  不動産売買で儲けたかなりの部分を申告していない裏の不動産の取得代金に使ってしまったため、正しい申告をしては、とても正規の税額の税金を支払えないと考えたこと

などを主たる動機として、判示のほ脱行為を行ったものであるが、そのほ脱の手段として、<1>契約書を作り変えたり、平成元年の売上を翌年分に繰り越すなどして売上の一部を除外し、<2>造成費・建物仕入・支払手数料などの架空仕入を計上し、<3>帳簿外取得分の不動産などを期末棚卸高から除外し、<4>給与・支払手数料などを架空計上するなどして所得を隠匿して過少申告を行ったものである。

二  その結果、正規の税額が一億六五七八万二〇〇〇円のところ、一億一三五万二二〇〇円のほ脱をし、そのほ脱率(ほ脱税額÷正規の税額)は六一パーセントとなった。

(なお、本件所得の確定は、損益計算法により、その計算の詳細は、別紙「修正損益計算書」のとおりであり、そのほ脱所得の内容の詳細は、別紙「ほ脱所得の内訳明細」のとおりであり、そのほ脱額の詳細は、別紙「脱税額計算書」のとおりである。)

三  以上、本件犯行の動機については、前記一2のとおりであり、源泉徴収制度のもとでその所得を完全に捕捉されている納税者との比較において考えても、これが正当化できるものではなく、また、本件のほ脱額の合計が一億円を越えていること及びほ脱率が六一パーセントにも及んでいることに加え、ほ脱の手段も巧妙なものであった点等から考え、悪質な事案である。

加えて、本件犯行は、納税者の高い倫理性を前提としてはじめて成り立つ申告納税制度を覆す行為であり、租税の公平負担の原則を害し、国家の課税権を侵害し、引いては租税収入の減少による国全体の損害に及んでいる点から考え、被告人の刑事責任は重いというほかない。

四  しかしながら、被告人には、次のような有利な事情も見受けられる。

1  本件犯行の中には、土地の売主から税対策としてその代金を過少申告するように依頼されたため、大切な顧客の依頼とあって、これに迎合して一部除外する等したため、架空経費を申告することとなったいきさつもあり、この点については酌むべきものがないとはいえない。

2  本件犯行の動機は、前記のとおり、到底正当化できるものでなかったにせよ、遊興費欲しさ等の意味での不純性はなかった。

3  被告人は、平成元年度の脱税額が、起訴にかかる分よりも多い一億二三五七万七〇〇〇円であることを認めた上、本税五〇〇万円、三〇〇万円、一億一〇〇〇万円、三〇〇万円、二五七万七一〇〇円に分けて、これを全額納付した。

また、重加算税の四三二四万九五〇〇円については、未納であるが、今後とも不動産の売却に努力して納付する旨誓っている。

4  被告人が中心となって経営してきているので、被告人がいなければ、その経営自体が成り立たなくなるおそれがある。

5  これまでに、業務上過失傷害の罰金刑一回を除いては、何等の前科前歴を有しない。

6  二〇年以上にわたり、不動産業の仕事を真剣にやってきており、本件を除いては、正当な人生を歩いてきているといえる。

7  本件を深く反省し、二度とやらない旨誓っている。

五  以上の被告人にとって不利な事情と有利な事情とを比較総合するときには、わずかばかりではあるが、後者の事情の方が勝っていると考えられるので、懲役刑については、今回に限りその執行を猶予することとし、主文のとおりの量刑とした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大島哲雄)

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